「治す医療」から「支える医療との共立」を。「これからの医療のかたち」はどうなっていくのか。そうした問題に正面から向き合った、市民公開講座が14日、埼玉県杉戸町の生涯学習センター「カルスタすぎと」で行なわれ、150人ほどの市民が、医療・介護の置かれている現状とこれからについて考えを新たにした。
この講座は、全国的にも極めて先進的な地域医療体制「とねっと」の構築を進めているNPO法人埼玉利根医療圏の糖尿病ネットワークが開催したもので、埼玉利根医療圏の属する埼玉県東部地域の医療の現状と今後の見通し、将来どうあるべきかを、医療の専門家ばかりでなく、一般市民にも分かってもらい、共に解決への道筋と、新しいシステム構築とその協力体制を話し合うことが狙い。
特に、埼玉利根医療圏は医師の不足が言われており、現在のこれから更に進む高齢社会にどう対応していくかが喫緊の課題ともなっている。
こうした中で、14日は、東京都文京区で在宅医療診療所を中心に活動している医療法人鉄祐会などが石巻市に開設し、東日本大震災の被災地支援・復興に積極的に取り組み、成果を挙げている石巻医療圏健康・生活復興協議会の園田・事務局長が「地域と共に取り組む被災地復興の歩み」と題して、復興への取り組みと問題点、その解決策等の講演を行なった。
復興は、「地域の力を引き出す」ことと「行政を補完する民間のあり方を示す」ことを実感しているとし、地域の人との密接な交流のなかで地域の力を底上げしていく方向に進めていくことが永続的な力になっていくこと、行政の優れている点を民間の持つスピードと柔軟性で補完していく協調体制が重要であるとした。
引き続き、医療法人財団「夕張希望の杜」の八田理事長(歯科医師)が「歯科からみた多職種連携」と題して、これからの医療および介護のあり方について、実践例を交えての講演を行った。
財政破綻した夕張市。その夕張市に向かって日本は進んでおり「夕張は日本の縮図」という。
夕張市が財政破綻した平成18年の高齢化率は43%。当時の日本の高齢化率は22.5%。現在は更に進む。
将来の県別高齢者人口の増加率(H17年比H27年)を見ると、埼玉県が1位で、この数字のとおり進むとすれば「日本一高齢者であふれる県!」と、増加テンポが速いことを強調。
その状況に対処するためには、国などが進めている「治す医療」から「支える医療」に劇的に変化させていくことが求められるとした。
そうした流れの中で、人が終末に向かっていくなかで、「生きがいを持って暮らしていくこと」、そのため、あるいは生きがいとしての「美味しく食べる」生活を提供することが「支える医療」のポイントとする。
これを受けて、「食」を楽しむためにはと題して山口・歯科衛生士が「口腔ケア」の問題点と取り組みを実践例を交えて説明。
「口腔ケア」の実践指導も行なった。
最後にまとめとして八田理事長が「支える医療」としての「とねっと」を埼玉県全体に拡大していくことが求められているとも。
休憩を挟んで、「とねっと」など地域医療の構築に積極的に取り組んでいる東埼玉総合病院の三島院長が「高齢社会、当院が考えるこれからの医療」と題して、 「地域密着型病院の新しいモデルとなる」病院作りを進めていくことを表明。
さらに、進む高齢化社会のなかで、医療・介護・福祉が有機的につながり、「心豊かな、笑顔のたえない地域づくり」につなげていければとした。
講演の締めくくりとして、東埼玉総合病院の中野医師をコーディネーターとして講演者によるシンポジュウムが開かれ、「とねっとについて」などの質問が会場から寄せられた。
医療問題という、一般にはなじみの少ないテーマだが、幸手市や杉戸町、宮代町などから多くの人が聴講に訪れ、「高齢化の中で、医療も変化していかなければならないのだなという感じを持った」「こうしたことを私たちに伝えてくれるこの講演会の開催に感謝したい」などの声が聞かれた。